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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)380号 決定

抗告人 高田よし子

相手方 高田登

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消す。相手方は抗告人に対し、財産分与として金一〇〇〇万円を支払え。」というのであり、その理由は別紙記載のとおりである。

二  よつて検討するに、本件記録によれば、抗告人と相手方は昭和三九年一二月七日婚姻し、二子を儲けたが、昭和五二年五月二〇日千葉家庭裁判所松戸支部において原審判添付の調停条項のとおり合意して調停離婚したことが認められる。そして、右調停条項によれば、両名は、抗告人(右調停申立人)が相手方(右調停相手方)に対し財産分与として金四七万五〇〇〇円を支払うことをもつて右離婚に関する一切の紛争を解決するものとし、右のほかには相互にいかなる請求もしない旨の合意をしたことが明らかである。したがつて、両名は、右調停において相互に右の支払のほかには財産分与の請求をしない旨を約したものというべきである。

ところで、本件記録によれば、柏市○○○字○○○○×××番×宅地二八・〇二平方メートルほか二筆の土地は、相手方の所有名義であり、その地上の建物である右同所同番地××、同番地×所在木造瓦亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅一階六四・四四平方メートル、二階二九・七四平方メートルは、相手方三分の二、抗告人三分の一の共有名義であること、右土地及び建物は、いずれも両名の婚姻中に取得され、その共同生活の用に供されていたこと、これらを取得するにあたり金融機関及び知人等から相手方名義で数口の融資を受けたが、右離婚の際には未だこれらの弁済を了していなかつたため、両名は、協議の上分担してその割賦弁済をしていることが認められる。そして、右土地及び建物の実質的な所有権の帰属が右登記名義と合致するかどうか及び右負債に関する両名の実質的な負担の割合についてはこれを認めるに足りる確たる証拠はないが、これらに関する両名の権利関係の確定ないしは共有関係の解消は、訴訟による解決に親しむものであるうえに、離婚に当たつてこれらについて清算を行うことなく、その権利関係をそのまま存続させることとしても、離婚に伴う財産の処理として必ずしも適切を欠くものであるとはいえないから、抗告人及び相手方がこの点についての明確な合意をすることなく財産分与に関する協議を成立させたからといつて、右土地及び建物に関して将来更に財産分与がなされることを当然に予定したものということはできない。したがつて、前述のように抗告人の相手方に対する約定額の支払のほかには離婚に関して相五にいかなる請求もしない旨の合意が成立した以上、当事者双方は、右土地又は建物に関して相互に財産分与を求める余地がないものというべきである。

三  そうすると、抗告人は相手方に対し、本件離婚に伴う財産分与を請求することができないのであるから、抗告人の本件財産分与の申立ては失当であり、これを却下した原審判は相当である。

よつて、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 奥村長生 橘勝治)

抗告の理由

一 前記審判申立事件について前記の審判がなされ、同審判の謄本は昭和五六年三月一九日抗告人に送達された。

二 右審判の理由とするところは、抗告人はその申立にかかる調停事件における昭和五二年五月二〇日調停離婚に際して財産分与請求権を放棄したというにある。

三 しかし

(1) 右調停は代理人によらず抗告人本人によつて行われたものであり、相手方もまた本人によつて行われ、当事者らは調停条項第三条記載の財産分与の趣旨および同第四項の趣旨を充分に理解していたものとは言えず、右各条項によつて直ちに抗告人が財産分与請求権を放棄したものと断ずることはできない。

(2) 右調停においては、当事者双方共当事者らが婚姻中協力して取得した土地および建物については何ら主張することなく、単に抗告人経営にかかるスナック経営資金の相手方出資分につき抗告人が相手方に返還する旨を調停条項第三項において合意したのみであり、右土地、建物については別途処理する考えでいたものである。(現に右調停後当事者間において右土地、建物の処理につき話合が行われており、また調停後相手方のみならず抗告人も右土地建物に関する借入金の返済を行つている。)

(3) 右土地建物のうち、建物については抗告人、相手方の共有登記がなされているが、抗告人の共有持分登記につき右調停において持分放棄登記手続等抗告人が右土地建物につき財産分与請求権を放棄する場合に必要なる合意は何らなされていない。

(4) よつて、抗告人は右調停において右土地建物に関する財産分与請求権を放棄したものではない。

(5) なお、原審判は抗告人の主張は共有物分割、不当利得返還請求等の民事紛争であるとするが、本件における右土地建物は当事者が婚姻中協力して取得したものであり、これに関する抗告人の請求は財産分与請求に外ならない。

四 右土地建物の時価は金二、〇〇〇万円を下らないものであり、これに関する財産分与として抗告人は相手方に対し金一〇〇〇万円の支払を求める。

〔参照〕 原審判(千葉家松戸支 昭五六・三・一六審判)

主文

本件申立を却下する。

理由

一 申立人は、「申立人と相手方が婚姻中協力して取得した土地および財産について離婚に伴う財産分与を求める。」という。

二 そこで、検討するに、一件記録によれば、申立人と相手方が、昭和三九年一二月七日婚姻し、同五二年五月二〇日当庁において別紙記載の調停条項をもつて調停離婚したことが認められる。

右調停条項によれば、申立人は、本件離婚に伴う財産分与請求権を放棄したことが明らかであるので、本件審判の申立は理由がない。(なお、申立人代理人の主張は、民事紛争としての共有物分割、不当利得返還請求等の内容を持つものと解される。)

三 よつて、申立人の本件申立を不相当としてこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

調停条項

一 申立人と相手方は離婚する。

二 当事者間の長女琴子(昭和四二年二月三日生)二女佳子(昭和四五年九月一七日生)の親権者を父である相手方と定め、同人において監護養育する。

三 申立人は相手方に対し、本件離婚に伴う財産分与として、金四七万五、〇〇〇円を、昭和五二年五月二一日限り、相手方宅に持参または送金して支払う。

四 当事者双方は、本件離婚に関しては上記条項をもつて一切解決したものとし、今後、その名義のいかんを問わず何らの請求をしない。

五 調停費用は各自弁のこと。

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